1.供託による休眠担保権抹消手続き要件は、下記のとおりです。
①担保権者が行方不明であること
②被担保債権の弁済期から20年を経過していること
③債権の元本・利息・遅延損害金の全額を供託すること
②③は技術的なことであちこちに解説があるので省略します。
いちばん悩ましいのは、①の行方不明の要件です。
住民票、戸籍簿等の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み等相当な探索手段を尽くしても、なお不明であることを要する(民事月報43巻8号)とされている一方で、登記の添付書類としては、登記義務者の登記簿上の住所宛に受領催告書を送付し、その不到達であったことを証する書面でよい、となっています。
添付書面がえらく簡易なもので足りるので、実体上の要件をどう解釈するか、といういつもの悩みに陥るわけです。
登記先例
「登記義務者が死亡している蓋然性が高い場合でも、登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことの証明書の添付があれば、その相続人を確認する必要はない」
「登記義務者が死亡し、その相続人が明らかであるにもかかわらず、受領催告書が不到達であったことを証する書面等を添付して登記権利者から抵当権抹消の登記申請があった場合は、受理せざるを得ない」
月報司法書士2012年7月号に、休眠担保権の抹消をめぐって懲戒がなされた事例が掲載されました。
事案は、
司法書士が依頼者(土地の所有者)
本件抵当権抹消登記申請が不動産登記法70条3項後段の規定に該当しないことを認識していたにもかかわらず、登記権利者の代理人として申請をしたものであって、
会員は法令または依頼の趣旨に沿わない書類を作成してはならない
この事例は、司法書士が担保権者の死亡とその相続人の存在を知っていたので「担保権者が行方不明」という要件を満たさないことになります。
担保権者の死亡や相続人を知らない場合にどこまで調査すべきか、という問題には、この懲戒事例は、直接答えていません。
で、次の照会です。
和歌山県会から日司連への照会平成26年1月6日付和司発第398号
「当会は連合会に対し、下記の事項についての見解を賜りたくご依頼申し上げます。
見解を求める事項 休眠抵当権の抹消登記について不動産登記法第70条第3項後段を適用して抹消登記の申請をする場合で月報司法書士2012年7月号の懲戒事例のような事情ではない通常の場合、配達証明書付き内容証明郵便による受領催告通知が宛所不明で返戻されたことだけで「登記義務者の所在が知れない」として弁済供託を行った上で登記の申請を行っても問題ないか。もし、それ以上の調査が必要とするのであればどのような調査を必要とするか。」
平成26年4月23日日司連常務理事の回答
「不動産登記法第70条第3項後段の規定による権利に関する登記の抹消を申請するには登記義務者が行方不明であることが必要であり、登記義務者が行方不明であるかどうかは、公示送達の要件に準じて、社会通念上注意を尽くすことが必要である旨や、住民票や戸籍簿の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み調査等、相当な探索手段での調査が必要である旨の見解があります。一方、登記先例によると、上記の申請をするには、登記義務者の行方の知れないことを証する書面を提出しなければならず、この書面は、登記義務者が自然人であるときは、登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことを市区町村長が証明した書面又は登記義務者の登記簿上の住所にあてた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面で差支えなく(昭和63
年7 月1 日民三3456 号民事局長通達)、その被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面は、配達証明付郵便によることを要する(昭和63 年7 月1 日民三3499
号民事局長通達)とされており、その後、これらの登記先例は変更されていません。よって、現在の登記実務上は、登記義務者の所在が知れないことを証する情報は、登記義務者が自然人であるときは、配達証明付郵便による登記義務者の登記簿上の住所にあてた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面で足りると考えます。照会後段は、前記によりご了知ください。なお、前記先例や登記実務は、登記手続に要する資料に関する取扱いであり、当該登記の抹消の申請を受託した司法書士が登記の抹消の申請までに登記義務者又はその相続人が存在していることを知ったときには、被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面が存在している場合であっても、登記義務者又はその相続人の存在を調査する必要があると考えます。ご指摘の懲戒事例(平成24
年5 月16 日甲府地方法務局長)も、そのような考え方によるものと思われます。」
「照会後段は、前記によりご了知ください。」ということですから、それ以上の調査は必要ない、という結論ですが、なんだか歯切れが悪いです。日司連常務理事の回答にどれだけの公的効力があるかも不安です。
一般市民の権利意識は年々高まっています。職域問題等で弁護士さんの司法書士に対する攻撃は年々シビアになっています。今日適法と言われた解釈が、明日もそのまま続くという保証はどこにもありません。
けして、保身の為だけではありません。司法書士がトラブルに巻き込まれるということは、依頼人も巻き込まれるということなのです。
ましてや、抵当権者の登記簿上の住所地で戸籍謄本や住民票の請求(除籍謄本、除票も含め)をすることは、探索というほどのことではありません。上記のような社会情勢から、戸籍謄本や住民票の請求ぐらいはしておいた方がいいと、私は考えます。
通常、人は100歳まで生きませんし、また相続人のいない天涯孤独な人というのも、そうそうはおられません。今は本籍地と住所地が同じという人は少数でしょうが、昔は本籍地=住所地という人が多く、抵当権設定登記が古ければ古いほど戸籍があがってきてしまうということが多いと思われます。
戸籍が上がってきてしまうと、特例は使えないということになります。ほんとうにがっかりですが、致し方ありません。
戸籍の請求書が該当なしで帰ってきたら、やった!と軽く拳を握るくらいにはほっとします。受領催告書を送付し、めでたく特例で供託して単独申請で抵当権抹消ということになります。
この際、登記に添付する行方不明を証する書類としては、不到達で返送された受領催告書だけでいいのですが、わたしは、該当なしで帰ってきた戸籍の請求書や不在住・不在籍証明書を添付します。
登記官は形式的審査権しかなく、一昔前は些細な書類の書き間違いなどにとっても厳格でしたが、昨今はそこはとっても柔軟に対応して下さっているのですが、反面、実体を気にされていると感じます。受領催告書にプラスして上記の書類をつけることによって、登記官も、なるほど担保権者は行方不明なのだと安心して登記を進められると推察します。
近隣住民からの聞き込み等については、これは不審がられてなかなか難しいというのが実感です。不在のお家も多いです。特例を使う場合、戸籍・住民票の請求をすれば必要充分で、聞き込みまでは必要ないでしょう。屋上屋を重ねてここまでやりましたは自己満足に過ぎないと思います。
抵当権者に相続が開始している場合、相続人が多ければ多いほど、任意の協力を求めるというのは現実的ではありません。
また、共同申請の場合、抵当権設定登記済証が添付書面となりますが100%存在しないでしょう。その場合は事前通知という方法によりますが、抵当権者の相続人から委任状に実印を押印、印鑑証明書をいただき、さらに法務局からの事前通知のはがきに実印を押印して返送していただくということになります。実印にしろ印鑑証明書にしろみなさん慎重ですから、これは簡単に全員がはいそうですか、協力しましょうとはならないでしょう。
というわけで抵当権抹消請求訴訟を提起するということになります。