休眠担保権抹消の特例(元金・利息・損害金の全額を供託して単独申請で抹消・不動産登記法70条3項後段)の要件である担保権者の行方不明については必要充分な調査をしましょうと、前に書きました。
でも、この特例も供託する金額が大きければ現実問題として使えません。担保権者が行方不明だけど供託金が高額で供託の特例が使えない場合は、公示送達の方法による休眠担保権の抹消請求訴訟を提起することになります。担保権者の多数の相続人を相手に訴訟する事例については以前に書きましたが、それよりはずっとずっと簡単な訴訟ということになります。
この訴訟の山場は書記官に公示送達を認めてもらうことに尽きます。
(公示送達の要件)
第百十条 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二 第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三 外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四 第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
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同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。
(公示送達の方法)
第百十一条
公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
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前二項の期間は、短縮することができない。
(公示送達による意思表示の到達)
第百十三条 訴訟の当事者が相手方の所在を知ることができない場合において、相手方に対する公示送達がされた書類に、その相手方に対しその訴訟の目的である請求又は防御の方法に関する意思表示をする旨の記載があるときは、その意思表示は、第百十一条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。この場合においては、民法第九十八条第三項 ただし書の規定を準用する。
条文のとおりなのですが、実務的なメモを以下に書きます。
*公示送達の申し立は、訴状と一緒に申し立てができます。
裁判所は、最後の住所地に宛てて一度は特別送達します。それが転居先不明等で返ってくれば公示送達をしてくれます。
*公示送達の申立書には、出来るだけ多くの証明資料を添付して出します。該当なしで返ってきた戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求用紙や不在住証明書、不在籍証明書なども。ですが、いちばん大切なのは現地調査した調査報告書。これにはできるだけ具体的に調査内容を書きます。付郵便(書留郵便に付する送達)が住んでいますよという調査内容になるのに対して、公示送達は住んでいませんよという調査内容になります。
*公示送達の場合は自白擬制が働きませんから立証がないと欠席判決が出ません。
根抵当権抹消請求訴訟の場合、所有権に基づく妨害排除請求で構成し、原告所有、被告の根抵当権という最低限の要件事実を主張します。これなら登記事項証明書で立証ができるからです。
所有者が債務者の相続人である場合は、消滅時効の主張をした方が根本的な解決になりますが、根抵当権の場合は、附従性が無く被担保債権がゼロでも消滅しないので、前提として確定したことを主張しなければなりません。確定すれば抵当権同様の附従性を取得しますので。債務者に相続が開始したこと、6か月以内に指定債務者の合意がなされていないこと等の主張立証になりそうですが、公示送達なのでここはシンプルに所有権に基づく妨害排除請求の要件事実だけの主張立証が簡便でしょう。
*判決は調書判決になります。
下記の場合に、裁判所が原告の請求を認めるときは、例外的に判決書を作成せずに口頭弁論期日の調書に判決の内容等を記載して期日に言い渡しをすることができます。
民事訴訟法254条
次に掲げる場合において、原告の請求を認容するときは、判決の言渡しは、第二百五十二条の規定にかかわらず、判決書の原本に基づかないですることができる。
一被告が口頭弁論において原告の主張した事実を争わず,その他何らの防御の方法をも提出しない場合
二被告が公示送達による呼出しを受けたにもかかわらず口頭弁論の期日に出頭しない場合
②前項の規定により判決の言渡しをしたときは、裁判所は、判決書の作成に代えて、裁判所書記官に、当事者及び法定代理人、主文、請求並びに理由の要旨を、判決の言渡しをした口頭弁論期日の調書に記載させなければならない。
ですから、確定証明申請書には「判決」ではなく、「第1回口頭弁論調書判決は、平成 年 月 日の経過により確定したことを証明願います。」と記載していくことになります。
*判決は職権で公示送達されます。
2回目以降なので掲示の翌日に送達の効力が生じます。。
確定日の計算は、公示送達の効力は掲示の翌日の0時に生じるので初日参入することになります。
初日参入で14日目の24時経過で確定します。
判決が確定した時に、意思表示したとみなされます。
*抹消登記手続き
執行文は不要。
確定証明書は必要です。収入印紙150円を貼って正副1通ずつ提出します。当然ながら送達証明書は不要です。
*上記の所有権に基づく妨害排除請求の場合、登記原因は、「判決確定日 判決」となります。
判決確定証明書に「平成27年10月31日の経過により確定」と記載があると、判決確定の瞬間は「10月31日24時」で、これは「11月1日0時」でもあります。登記申請書に記載する登記原因日は、11月1日になります。