相続登記というご相談でしたが登記事項証明書を見ると信託による所有権移転登記が入っていました。
目をつむってもできる相続登記から一転難解な信託登記に💦
委託者兼受益者:父一郎、受託者兼帰属権利者:一人息子太郎
という認知症対策の家族信託でした。
調べてみると 令 和 6 年 1 月 1 0 日付け法 務 省 民 二 第 1 7
号の回答が出ていました。
受託者の固有財産に属する財産となった旨の変更登記とその前提として受益者の変更登記が必要なことが分かりました。受託者の固有財産となった変更登記の登録免許税は登録免許税法第7条第2項が適用され1000分の4です。
所有権移転登記か所有権変更登記かという2説があったのが変更登記に決着したということですが、そもそもいそんな争いがあったことを知りませんでした💦
しかし、本件では、信託の公正証書には委託者が死亡したときの帰属権利者が受益者相続人太郎という記載がありますが、登記事項証明書の信託目録にはその記録がありません。
当初、私は、登記原因証明情報で「別紙公正証書記載の通り委託者死亡のときは帰属権利者を受益者相続人太郎とする旨の記載がある」としようかと思ったのですが、同業の先生からドンピシャの資料をいただきました。
「信託登記の照会事例1 横山亘」によると、信託目録の内容が後継の登記の内容と整合するよう信託目録の記載事項の遺漏更正が許されるとありました。
なるほど、別紙公正証書記載の通り帰属権利者の定めがあると登記原因証明情報に記載したところで登記記録からは帰属権利者の定めがあることは分かりません。中間省略登記になってしまいます。ここは更正登記を入れるべきと判断しました。
法務局に照会を掛けると、省略していいかと聞かれると本庁にまであげて検討する必要があるが更正登記することは何ら問題が無いとの回答でした。そりゃあそうですよね
もう一つの懸念は、自力で作った登記原因証明情報で問題ないかということ。登記原因証明情報のひな形がどこを探してもなく自分で作るしかありませんでした。これも照会を掛けましたが何か問題でも?という反応でした💦
私らは失敗や訂正が許されないのでこれでいいと思ってもやはり事前にOKがいただきたいのです。
というわけで、さんざん調べてさんざん考えたのですが、そんなにある登記でもないし、誰かのお役にでも立てればと登記原因証明情報とついでに申請書もアップしておきます。
さて、そもそもなぜ帰属権利者の定めが登記されていなかったかですが、遺言なら中身を秘匿できるのに帰属権利者を記載すると他の相続人からクレームがつくからわざと記載しないこということでした。なんだかずるいですね。
しかも本件、一人息子なのでクレームのきようが無いです。
ちなみにちょうど同様案件で信託したいという相談がありましたが、相談者の一人娘さんが親と同居しており、親が認知症になって施設に入っても自宅を売ることは無いということでした。
信託で手間暇お金掛けて自宅の名義を一人娘さんにする必要性がありませんよと止めました。
一部専門職等が、認知症になったら預金が凍結されるとか後見では自宅が売れないとか脅して信託を勧めるの、ほんとうに問題だと思いますよ。
施設入所した案件は全て、裁判所の居住用不動産処分の許可を得てご自宅売却してますから。
さて、以下に申請書と登記原因証明書をアップします。自己責任で。質問はご遠慮ください。(そんなに親切ではないです)
(3の1)
登 記 申 請 書
原 因 錯誤
更生後の事項
4、その他の信託条項
(1)~略~
(2)~略~
(3)本信託終了時の残余の信託財産については、信託の終了事由(1※委託者一郎が死亡したとき)により信託が終了した場合は、受益者相続人の太郎に帰属させ、信託の終了事由(2)(3)により信託が終了した場合は、信託終了時の受益者に帰属させる。
申請人 (受託者)太郎
添付情報 登記原因証明情報兼信託目録に記録すべき情報 代理権限証書
代 理 人
登録免許税 金2000円
送付の方法により登記完了証を記載した書面の交付を求める
送付先 資格者代理人事務所
令和6年8月 日申請 大阪法務局 出張所 御中
不動産及び信託目録の表示
~略~
信託目録 第号
登記原因証明情報兼信託目録に記録すべき情報
1 登記申請情報の要項(信託目録に記録すべき情報)
(1)登記の目的 その他の信託条項更正
(2)登記の原因 錯誤
(3)更生後の事項
4、その他の信託条項
(1)~略~
(2)~略~
(3)本信託終了時の残余の信託財産については、信託の終了事由(1)により信託が終了した場合は、受益者相続人の太郎に帰属させ、信託の終了事由(2)(3)により信託が終了した場合は、信託終了時の受益者に帰属させる。
(4)申請人 (受託者)太郎
(5)不動産及び信託目録の表示
~略~
信託目録第58号
2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)信託契約の締結
受託者 太郎と委託者 一郎は、令和年月日、受益者を一郎とする信託契約を締結し、登記を経由した(令和年月日受付第号)。
(2)本件信託契約において、終了に伴う残余財産の帰属の定めとして、「本信託終了時の残余の信託財産については、信託の終了事由(1)により信託が終了した場合は、受益者相続人の太郎に帰属させ、信託の終了事由(2)(3)により信託が終了した場合は、信託終了時の受益者に帰属させる」旨の定めがある。
(3)上記(2)の定めを「4、その他の信託条項」に記録するべきところを錯誤により遺漏した。
(4)よって、「4、その他の信託条項」を下記の通り更正する。
4、その他の信託条項
(1)~略~
(2)~略~
(3)本信託終了時の残余の信託財産については、信託の終了事由(1)により信託が終了した場合は、受益者相続人の太郎に帰属させ、信託の終了事由(2)(3)により信託が終了した場合は、信託終了時の受益者に帰属させる。
令和6年8月 日 大阪法務局 出張所 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(受託者) 太郎 ㊞
※更正事項はもちろん個別の信託契約条項によります。
(3の2)
登 記 申 請 書
登記の目的 受益者変更
原 因 令和年月日死亡
変更後の事項 受益者 太郎
申請人 (受託者)太郎
添付情報 登記原因証明情報兼信託目録に記録すべき情報 代理権限証書
代 理 人
登録免許税 金2000円
送付の方法により登記完了証を記載した書面の交付を求める
送付先 資格者代理人事務所
令和6年8月 日申請 大阪法務局 出張所 御中
不動産及び信託目録の表示
~略~
信託目録 第号
登記原因証明情報兼信託目録に記録すべき情報
1 登記申請情報の要項(信託目録に記録すべき情報)
(1)登記の目的 受益者変更
(2)登記の原因 令和年月日死亡
(3)変更後の事項 受益者 太郎
(4)申請人 (受託者)太郎
(5)不動産及び信託目録の表示
~略~
信託目録第号
2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)信託契約の締結
受託者 太郎と委託者 一郎は、令和年月日、受益者を一郎とする信託契約を締結し、登記を経由した(令和年月日受付第号)。
(2)本件信託契約において、信託終了事由として「委託者一郎の死亡」の定め及び委託者一郎の死亡により信託が終了した場合は「受益者相続人太郎を帰属権利者とする」定めがある。
(3)受益者の死亡
令和年月日、受益者一郎が死亡した。
(4)信託法の定め
信託法第183条第6項において、帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす旨の定めがある。
(5)受益権の移転
よって、本件受益権は、令和年月日、一郎から太郎に移転した。
令和6年8月 日 大阪法務局 出張所 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(新受益権者兼受託者) 太郎 ㊞
信託法第183条第6項知らなかったです💦
(3の3)
登 記 申 請 書
登記の目的 受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消
原 因 所有権変更 令和年月日信託財産引継
信託登記抹消 信託財産引継
権利者 (信託抹消登記申請人)太郎
義務者 太郎
添付情報 登記原因証明情報 印鑑証明書 住所証明書 代理権限証明書
令和6年8月 日申請 大阪法務局 出張所 御中
代 理 人
課税価格 金円
登録免許税 金 円
移転分 金円(登録免許税法第7条第2項)
信託登記抹消分 金2000円
送付の方法により登記完了証を記載した書面の交付を求める
送付先 資格者代理人事務所
不動産の及び信託目録の表示
~略~
信託目録第号
※権利者兼義務者なので印鑑証明書要らないようにも思えますが要ります。そこは形式的に判断するようです。
※登録免許税法第7条第2項の適用を受けるために帰属権利者が相続人であることを証明する戸籍謄本を添付すれば足ります。13歳~とかつける必要は無いです。
※登記識別情報は発行されません。信託の所有権移転登記の登記識別情報がずーっと生きますから間違って廃棄しないように助言が必要です!
登記原因証明情報
1 登記申請情報の要項
(1)登記の目的 受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消
(2)登記の原因 所有権変更 令和年月日信託財産引継
信託登記抹消 信託財産引継
(3)当 事 者 権利者
(信託抹消登記申請人)太郎
義務者 太郎
(4)不動産及び信託目録の表示
~略~
信託目録第号
2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)信託契約の締結
受託者 太郎と委託者 一郎は、令和年月日、受益者を一郎とする信託契約を締結し、登記を経由した(令和年月日受付第号)。
(2)本件信託契約において、信託終了事由として「委託者一郎の死亡」の定め及び委託者一郎の死亡により信託が終了した場合は「受益者相続人太郎を帰属権利者とする」定めがある。
(3)令和年月日、委託者一郎が死亡した。
(4)よって、本件不動産は、信託契約の規定に基づき、令和年月日信託財産引継を原因として受託者たる太郎の固有財産となった。
令和6年8月 日 大阪法務局 出張所 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(権利者兼義務者)太郎 ㊞
(令和6年9月10日)