お身内からの後見人に対する、というか、後見制度に対する不満を見聞きすることがあります。私が家裁から後見人に選任された件で経験したのは、申し立て前からかかわっていた専門職からの敵愾心でした。
申立人と親である本人とが遺産分割協議で利益相反の関係にあり、申立人が後見人に選任される事案ではなかったのですが、後見人選任申立手続きをした司法書士にその知識がなく身内は選任されないと関係者に説明していなかったことが原因のようです。②の誤解ですね。あと、申立司法書士に後見人の職責についての理解がなく、後見人は身内の指示に従うものだと誤解されていたようです。⑤の誤解です。
幸い、お身内の申立人とは良好な関係を築け、遺産分割協議後に後見支援信託を経て申立人に後見人を交替しました。
このように、専門職後見人への不満は、後見制度に対する誤解からもたらされることが多いと常々感じていたのでよくある誤解を簡単にまとめました。
① 認知症になったら必ず後見人を選任しないといけないという誤解
親が認知症になったからといって成年後見人を選任しなければならないということはありません。しかし、自宅を売却する、遺産分割協議をするというような場合は、本人には法律行為をする能力がありませんので、後見人が本人を代理して手続きする必要があります。
② 後見人には必ず身内がなれるという誤解
申し立ての際に後見人候補者に身内を立てても、だれを後見人に選ぶかは家庭裁判所が独自に判断して決定します。預貯金がたくさんある、資産が多岐にわたる、身内でもめているというような場合は、弁護士や司法書士などの専門職が選任されます。身内が選ばれないのは納得できないと専門職後見人に反感を持たれることがありますが、ご本人のためには、身内と専門職後見人が協力し合うことが大切です。
なお、預貯金がたくさんある場合は、信託銀行に預金の大部分を預けたうえで身内の方に後見人を交替するのが一般的です。最高裁判所は最近、後見人は親族が望ましいとの考え方を示しました。
③ 専門職後見人にすべて任せることができるという誤解
専門職後見人が選任されればすべてお任せできるという誤解もよくあります。後見人の職務は療養看護と財産管理です。療養看護というのは、どのような施設に入ることが本人のためになるかを考えて入所契約などをすることであって、付き添いをしたりおむつを買いに行ったりすることではありません。また、医療同意や施設入所の際の身元引受などは、後見人の職務には含まれません。こういった意味で身内の方と専門職後見人の協力関係がとってもたいせつなのです。
④ 身内が専門職後見人の報酬を払わないといけないという誤解
後見人の報酬は家庭裁判所が決定します。預貯金が1000万円で月額2万円、預金額に応じて増額されます。預金額ではなく仕事の内容で決めましょう、という方向に変わりそうですが。そして、報酬はお身内が支払うのではなく、本人の財産から出すことになっています。本人に預金がない場合は、報酬の出処がなく無報酬ということもあり得ます。
なお、お身内が後見人になられた場合も報酬付与の申し立てをして報酬をもらわれたらいいと思います。きっちり帳面を付けよう、という動機になりますから。
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⑤ 専門職後見人が思い通りに動いてくれないという誤解
後見人は本人の利益を第一に考えます。ご本人に法定相続分が確保されない遺産分割協議など、お身内の要望があっても受け入れられないことがあります。また、後見業務について家庭裁判所と公益社団法人リーガルサポートに対して報告しますが、お身内に対する報告義務はありません。