宗教法人の相談に来られた依頼者に「簡単ではありませんよ」という言葉とともに手順書と行政書士さんの名簿をお渡ししたのは3年程前になります。
不言実行、宗教法人設立認証を受けられました。宗教法人の設立認証には宗教団体としての活動実績が必要なのである程度の期間が必要となるのです。
宗教法人の設立登記はこれが最初で最後でしょうというほど珍しい登記です。
「法人登記書式正義」と大阪司法書士会の「業務資料実務法人登記」と、あとはネットの情報をかき集めましたが疑問をピンポイントで解説するものが出てきません。
登記が終わってから司法書士会の研修ライブラリーに「宗教法人の登記」を見つけて、あーこれに気が付いてたら!と視聴しましたがやはり痒いところに手は届いてませんでした。
というわけで、少しでも同業者の参考になればと私が試行錯誤したところを書いて残します。
宗教法人の登記の難しいところは、行政書士の先生が規則の認証手続きをされるので司法書士にはどういう手続き・どういう書類を府庁に提出してどのような条件をクリアして規則が認証されたのが分からないことです。
反省を込めて言います。丁寧に規則を読むこと宗教法人法をちゃんと調べること、この二つの基本がとっても大切です。
【目的】について
規則第3条に当該宗教法人の目的が定められています。
この法人は収益事業も行うので最終章に(公益事業以外の事業)として2つの事業が記載されていました。
わたしはてっきり目的の「この目的を達成するために必要な業務及び事業を行う」のなかにこの収益事業が含まれると思い込んでしまいました。
ただ、会社であれば目的の範囲内でのみ会社の権利能力が認められるのにこんなざっくりした表現でいいのかなという疑問は頭をかすめました。
登記完了後に行政書士の先生から収益事業が登記されていないとご指摘を受けました。
あわてて宗教法人法を確認しました。
宗教法人法52条2項に設立の登記事項が定められており、
宗教法人法
第五十二条
2項
七 規則で境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物に係る第二十三条第一号に掲げる行為に関する事項を定めた場合には、その事項
要は、境内建物・境内地・財産目録に掲げる宝物を処分、又は担保に供することに関する事項だけが登記事項ということです。借入とか境内建物の増改築とかは関係ありません。また公告とか緊急・軽微の例外は宗教法人法に規定されているので登記する必要はないということになります。
登記官がおっしゃるには、この宗教法人法の規定を見過ごして規則の文言のまま登記されていることがたまにあるということです。司法書士会の業務資料も間違っていたので要注意です。
【名称】について
宗教法人は名称中に宗教法人という文字を入れても入れなくてもいいことになっています。
規則に
(名称)
第1条 この寺院は、宗教法人法による宗教法人であって〇〇という。
と規定されていると、〇〇だけが登記事項になります。
名称中に「宗教法人」を入れないことが多いようですが幸福の科学の名称は「宗教法人 幸福の科学」です。「〇〇寺」とか「〇〇教会」なら宗教法人と一目瞭然ですがそうでないときは「宗教法人」と入れた方が分かりよいということでしょうか。
司法書士がかかわるのは規則ができてからなのでゴム印の作成がまだなら宗教法人は入っていませんよと注意喚起するくらいです。
ここで設立登記の添付書面を書いておきます。
規則の謄本 (送付) 1通 認証書の謄本 (送付)1通 代表権を有す者の資格を証する書面 責任役員の選任を証する書面 規則附則第2条の記載を援用する 代表役員の選任を証する書面 規則附則第2条の記載を援用する 代表役員及び責任役員の就任承諾書(送付) 1通 委任状 (送付) 1通 |
その他の申請事項欄に | 認証書到達年月日 |
を記載しないといけないので行政書士の先生に認証書を受け取った日を聞いておく必要があります。
ちなみに就任承諾書は、
私は、今般宗教法人「〇〇」の規則において責任役員及び代表役員に選任されましたので、その就任を承諾致します。
という文言で作りました。
実印の押印も印鑑証明書も就任承諾書には不要ですが印鑑届が必要なので実印を押印していただきました。
【基本財産の総額】について
これはかなり悩ましかったです。
当該宗教法人の設立規則認証手続きの中で、設立したときは個人から宗教法人に設立日をもって境内地・境内建物の所有権移転登記をするという寄付証書、設立後に境内地境内建物の寄付を受けると記載された財産目録が提出されています。
また、当該宗教法人の規則で不動産は基本財産とされ、別条項で基本財産の設定・変更は評議員会の議決を経、責任役員会の議決を得るとの規定があります。
五 基本財産がある場合には、その総額 が設立登記事項とされています。
上記の寄付証書は法的には設立を停止条件とする寄付契約と評価できます。そうすると設立と同時に条件が成就することになって基本財産となる(当該宗教法人の規則で不動産は基本財産とするとの規定があるので)とも考えられます。
しかし、規則には基本財産として境内土地建物は具体的に記載されておらず、その総額も記載されていません。
基本財産やその総額は下記のように規則で定めるべき事項とはされておらず任意的記載事項です。
宗教法人法第12条
八 基本財産、宝物その他の財産の設定、管理及び処分(第二十三条但書の規定の適用を受ける場合に関する事項を定めた場合には、その事項を含む。)、予算、決算及び会計その他の財務に関する事項
さて、たしかに登記は単なる対抗要件ですから、設立と同時に当該法人が境内土地建物の所有権を取得したと考えれば設立登記において基本財産の総額の登記ができる余地があるようにも思えます。
すが設立時点では登記手続きという履行が終わっていない境内土地建物を基本財産として登記できるかは疑問です。
これが寄付金であれば規則に記載がなくても設立前に代表者に寄付金を引き渡し履行が完了している寄付証書や財産目録や代表役員の証明書を貼付すれば設立時から基本財産の総額を登記できるように思います。
不動産はどうでしょうか? 履行が終わっていなくても規則に基本財産の総額を記載すれば設立登記で登記することが可能なのでしょうか?そもそも履行が終わっていない不動産について基本財産の総額を記載した規則の認証が受けられるものなのか、そこのところは認証手続きにかかわっていないので考えても分かりません。
宗教法人設立登記完了後に、(1)設立を条件とする寄付契約(2)設立によって条件が成就したとの登記原因証明情報を添付し境内土地建物の寄付による所有権移転登記をしました。(通常は非課税証明書を添付しますが今回は一部収益部分があり非課税証明書は出ないということでした)
行政書士の先生の説明では、境内地境内建物の取得を前提に府庁の認証が下りているということでした。そうであるなら設立後の評議員会や責任役員会の承認決議にかからしめるのはおかしいのではないかと考えましたが、法務局照会の結果、規則の附則で設立時の境内土地建物の基本財産設定については評議員会と責任役員会の承認決議は不要とするなどの条項がない限り、基本財産の総額の設定登記(最初の登記は変更ではなく設定となります)には規則に則り評議員会と責任役員会の議事録が必要という回答になりました。
整理すると、規則の規定全体を解釈して、
境内土地建物の寄付を受けることについては承認決議は不要。
基本財産の設定には評議員会と責任役員会の承認決議が必要。
ということになると結論しました。しかしこれはもちろん個々の宗教法人の規則の定めと解釈によるので、この意味で規則をしっかり読み込むことが大切ということです。
では、基本財産の総額の設定の原因日付は、寄付の日(設立日)なのか、責任役員会決議の日かいずれでしょうか?
宗教法人が不動産を売却する場合については、責任役員会議決や包括法人の承認などについて静的安全と取引の安全との考慮が問題となりますが、基本財産の設定は純然たる内部事項なので規則に定めた承認決議が効力要件になるのが素直なのかなと。つまり責任役員会決議の日が設定日になると考えます。
さて、基本財産の総額設定登記の添付書類です。
基本財産の総額を証する書面(送付) 1通 規則の謄本(送付) 1通 評議員会議事録(送付) 1通 責任役員会議事録(送付) 1通 寄付の履行があったことを証する書面(送付) 1通 委任状 (送付) 1通 |
基本財産の総額を証する書面として下記の証明書(財産目録編綴)を添付しました |
証 明 書
当宗教法人の基本財産の総額は、別紙財産目録記載のとおり金 円に相違ありません。
下記不動産は、〇〇が、令和3年 月 日、当法人の設立代表者〇〇に対し、当法人が設立されたときは設立の日をもって境内地・境内建物として寄付する旨の意思表示をし、設立代表者〇〇がこれを受諾し、令和3年 月 日当法人が設立したので、同日の寄付を原因として、当法人に所有権移転登記をなしたものである。
次いで、同年 月 日当法人の評議員会及び責任役員会の承認決議を得、同日、規則第25条により当法人の基本財産に設定されたものである。
記
不動産の表示
なお、当法人は、別紙規則の謄本のとおり規則に基本財産の総額の記載がなく規則変更の手続き及び認証は不要であります。
寄付の履行があったことを証する書面としては不動産の登記事項証明書を添付しました。議事録に履行したことの記載があれば不要のようですが付けたほうが親切かと。
評議員会の委員名簿までは不要でした。責任役員については規則で判明します。
なお、基本財産の総額は会計帳簿との整合性が気になったので、税理士事務所に確認の上評価証明書の金額を記載しました。
登記が完了したら府庁に提出されるので履歴事項証明書1通を行政書士の先生に送ることになります。
結局全部が霧が晴れるように判明したわけではないのですが、このようにして登記をしましたという1例です。私はこの1例もなかったので苦労したわけです。
どなたかのお役に立てれば幸いです。
(そんなに先がない気がするので人には親切にしたいですから)