現行の借地借家法が施行されたのは平成4年8月1日ですので、同年7月31日以前に契約した借地契約には旧借地法(大正10年4月8日法律第49号)が適用されます。
新法施行後に更新していたとしても、旧借地法が適用されます。
もう少し正確にいうと、
借地借家法は、附則第4条で「この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する」と遡及適用の原則を取りながら、附則5条以下で不適用の例外を広汎に定めています。
借地借家法遡及適用の例外は下記のとおりです。
①借地権の存続期間
②堅固建物、非堅固建物
③借地上の建物の朽廃にしょる借地権消滅(附則5条)
④借地契約の更新(正当事由を含む)(附則6条)
⑤建物の再築による借地権の期間の延長(附則7条1項)
⑥借地権の対抗力に代わる掲示(附則8条)
⑦借地条件の変更の裁判(施行前申立)(附則10条)
新借地借家法の遡及適用を受けるのは、旧借地法と実質的に同一と判断されるものです。具体的には以下のとおりです。
借地借家法の適用を受けるもの
①借地権の対抗力等に関する10条
②地代等増減請求に関する11条
③借地権設定者の先取特権に関する12条
④借地権者の建物買取請求権に関する13条1項
⑤第三者の建物買取請求権に関する14条
⑥借地条件の変更および増改築の許可に関する17条
⑦土地賃借権の譲渡等の許可に関する19条
⑧建物競売の場合における土地賃借権譲渡の許可に関する20条
⑨一時使用目的の借地権に関する25条
⑩借地上の建物の賃借人を保護する35条
以上の通り、旧借地法と実質的に同一と判断される条項以外は旧借地法が適用されますので、結局、新法施行以前に成立した借地権は、ざっくり言うと、旧借地法の適用を受けるということになるのです。
新借地借家法 附則
(建物保護に関する法律等の廃止)
第二条 次に掲げる法律は、廃止する。
一 建物保護に関する法律(明治四十二年法律第四十号)
二 借地法(大正十年法律第四十九号)
三 借家法(大正十年法律第五十号)
(旧借地法の効力に関する経過措置)
第三条 接収不動産に関する借地借家臨時処理法(昭和三十一年法律第百三十八号)第九条第二項の規定の適用については、前条の規定による廃止前の借地法は、この法律の施行後も、なおその効力を有する。
(経過措置の原則)
第四条
この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。
(借地上の建物の朽廃に関する経過措置)
第五条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による。
(借地契約の更新に関する経過措置)
第六条 この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。
(建物の再築による借地権の期間の延長に関する経過措置)
第七条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の滅失後の建物の築造による借地権の期間の延長に関してはなお、従前の例による。
2 第八条の規定は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。
(借地権の対抗力に関する経過措置)
第八条 第十条第二項の規定は、この法律の施行前に借地権の目的である土地の上の建物の滅失があった場合には、適用しない。
(建物買取請求権に関する経過措置)
第九条 第十三条第二項の規定は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。
2 第十三条第三項の規定は、この法律の施行前に設定された転借地権については、適用しない。
(借地条件の変更の裁判に関する経過措置)
第十条 この法律の施行前にした申立てに係る借地条件の変更の事件については、なお従前の例による。
(借地契約の更新後の建物の再築の許可の裁判に関する経過措置)
第十一条 第十八条の規定は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等に関する経過措置)
第十二条 この法律の施行前にされた建物の賃貸借契約の更新の拒絶の通知及び解約の申入れに関しては、なお従前の例による。
(造作買取請求権に関する経過措置)
第十三条 第三十三条第二項の規定は、この法律の施行前にされた建物の転貸借については、適用しない。
(借地上の建物の賃借人の保護に関する経過措置)
第十四条 第三十五条の規定は、この法律の施行前に又は施行後一年以内に借地権の存続期間が満了する場合には、適用しない。
【存続期間】
口頭の契約の場合期間を定めていないということが多いでしょう。この場合には、堅固建物で60年、非堅固建物で30年になります。
借地法
第2条 借地権ノ存続期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ60年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ30年トス 但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス
2 契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付30年以上、其ノ他ノ建物ニ付20年以上ノ存続期間ヲ定メタルトキハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス
【法定更新】
何十年も前の借地契約が続いているということは、法定更新がなされてきたと考えることができます。この場合の更新期間は堅固建物で30年、非堅固建物で20年です。二回目三回目の法定更新も同じ期間になります。
第5条 当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ30年、其ノ他ノ建物ニ付テハ20年トス 此ノ場合ニ於テハ第2条第1項但書ノ規定ヲ準用ス
2 当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ
第6条 借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス 此ノ場合ニ於テハ前条第1項ノ規定ヲ準用ス
2 前項ノ場合ニ於テ建物アルトキハ土地所有ハ第4条第1項但書ニ規定スル事由アルニ非サレハ異議ヲ述フルコトヲ得ス
【建て替え】
といっても、木造建物で30年+20年で築50年になります。たいていの場合更新期間中に建物が建て替えられているのではないでしょうか。この場合、再築に地主が異議を述べなければ、賃貸期間は、旧建物の取り壊しの日から起算して堅固建物で30年、非堅固建物で20年に伸長されています。
借地法
第7条 借地権ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ残存期間ヲ超エテ存続スヘキ建物ノ築造ニ対シ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地権ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ30年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ20年間存続ス 但シ残存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期間ニ依ル
新築の日ではありません
。「滅失ノ日ヨリ起算シ」です。
代替わりしていればおそらく旧建物の取り壊し日など借地人も把握していないことが多いでしょう。
旧建物が登記建物であれば、取り壊し日は閉鎖登記簿謄本を取得することによって判明します。
ここで豆知識
建物の家屋番号は土地の地番と同一の番号が付されます(地番が36番5なら家屋番号も36番5)。いつ頃からか建物建て替えの場合は、従来の家屋番号に「の2とか02」が付加されるようになりました。
ですから、家屋番号がたとえば、36番5の2となっていれば、その建物が建て替えられたものであること、かつ旧建物が登記建物であったことがわかるわけです。
ところが、 むかしは、登記した順番で家屋番号が付されていました。
地番は36番5なのに家屋番号は152番だったりするわけです。この場合は建て替えであっても「の2」が付されていません。
「の2」が付されていなくても建て替えでかつ旧建物が登記されていることがあるということです。
こういった地番と異なる古い家屋番号は目録のような簿冊で調べてもらえますので、これで閉鎖登記簿謄本を取得すれば旧建物の取り壊し日が分るわけです。
さて、旧建物が未登記の場合はどうすればいいでしょう。
市役所の固定資産税課には家屋台帳というものがあります。これは建物が未登記でも課税のために航空写真から割り出して現地調査をするものです。
この家屋台帳に旧建物の取り壊し日が記載されていないかと固定資産税課で聞いたのですが、現地調査をして旧建物が存在していなければ台帳から除却し、その除却日は記載しているが、取り壊し日までは記載していないということでした。
それはまあそうなのでしょう。
更新後の借地期間の起算日が旧建物の取り壊し日なので何年何月何日に取り壊したかはとっても重要なんです。
で、これがどうしても分らない場合です。
いっそ、契約書もないことだし新しく契約書を作り直しちゃえ、という考えもあるでしょう。
ですが、旧借地法は借地人保護が強く、現行の借地借家法は借地人保護を全体としては弱めています。
借地法第11条は、 第2条、
第4条乃至
第8条ノ2、
第9条ノ2(
第9条ノ4ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)及
前条ノ規定ニ反スル契約条件ニシテ借地権者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス
と定めています。
旧契約を合意解除して借地借家法の適用を受ける借地契約を締結し直したとしても、契約を締結し直す合理的な理由がない限り、脱法行為として無効になる恐れがあります。
契約を締結し直したことで、その契約が有効か無効かが新たなトラブルの種になる恐れがあるということです。
で、やはり、現に存在する契約を探るという作業が正しいのではないかと思うのです。
旧建物の取り壊し日がどうしても分からないときは、
再築建物の新築日が分る場合は、その日を起算日と合意する。
それも分からない場合は、合意日から起算する。
これ、不明である本来の賃貸借期間より必ず後ろに伸びる(長くなる)から賃地人に有利なんですよね。
借地人に有利な合意は有効である、ということでOKだと考えます。
上記はあくまで私見です。必ず、ご自身で調べてくださいね。