割合的包括遺贈に関する超困難な登記が完了したので復習がてら書いて整理していきたいと思います。
事案があまりにもややこしかったのと守秘義務の観点から事案を単純化します。
全遺産を甲、乙、丙、丁に各4分の1の割合で遺贈するとの包括的割合遺贈の遺言書があったとします。
丁のみが相続人(養子)で甲乙丙は相続人ではありません。丙が遺言者より先に死亡しました。この場合丙に遺贈するとした4分の1は誰にどう帰属するかという問題です。
民法994条1項と995条に規定があります。あれっ?と思ったら条文です。
明文規定どうりに当てはめると、丙に遺贈するとした部分のみ無効となり、丙に遺贈するとした4分の1は相続人である丁に帰属し、甲4分の1、乙4分の1、丁4分の2という割合になります。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
コンメンタール(私の持ってるのは古いです、30年前!)には「受遺者が複数ありその一部が無効となった場合に、その目的物は他の包括受遺者に帰属するか、相続人に帰属するかは争いがある。前者が有力であるが強い疑問も出されており、むしろ、複数の包括遺贈の一つが効力が無い場合、その受遺分を本来の相続人に帰属せしめるのが立法者意思とされている。
この丙の受遺分4分の1を養子である丁に帰属させる相続登記につき法務局から丁に帰属したとの相続人、受遺者、遺言執行者全員の上申書の添付を求められました。
民法の規定どおりなんですが上申書要りますか?と聞きましたが要るとのこと。もう登記を通すことが第一目的ですので作りましたよ、上申書。
「なお、受遺者丙が遺言者死亡以前に死亡した為、民法994条及び995条の規定により、無効となった丙への受遺分は遺言者の法定相続人が承継したものに相違ありません。」
という上申書を作成しました。当事者が、丁は相続税対策の養子縁組で丙の受遺分は丁を含む包括受遺者全員に受遺割合で帰属したとの解釈のもと遺産分割協議を終えていたからです。ですから、民法の条文どおりでは相続人に帰属することになりますよ、という説明が必要と考えました。
が、民法の条文は抜いて下のように書いてくれと法務局からダメだしが。
「なお、受遺者丙が遺言者死亡以前に死亡した為、丙への遺贈の効力は生じず、失効した丙への受遺分は遺言者の法定相続人が承継したものに相違ありません。」
もう登記を通すことが目的なので言われるがままに訂正しましたよ。
しかし、もしかして明文規定に反する有力説や判例があって法務局はこんな上申書を求めたのかもと頭の片隅に残っていたので(散々調べて結論出したのですが)また調べ直しているというわけです。
なぜなら、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有することから(民法990条)、失効受遺分は相続人に加えて他の包括受遺者にも帰属するとの解釈も充分あり得るからです。30年前のコンメンタールにも有力説であると書いていました。(有力説は多数説ではありませんが)
結論から言いますと、民法995条の「相続人」に包括受遺者は含まれず、失効受遺分は専ら相続人に帰属すると解するのが現在の多数説です。
そしてありましたよ、最高裁判決。下記最高裁判決によって包括受遺者には帰属しないことに決着がついていました。
令和5年5月19日 最高裁判所第二小法廷
「民法995条は、本文において、遺贈が、
その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受 けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者が その遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面におい
て、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、 遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、
相続人に帰属すると解するのが相当である。」
明文で規定され最高裁判決で決着もついていることを、なぜに法務局は上申書を求めたのでしょうか?ナゾです。
ナゾと言えばナゾだらけの法務局対応でした。
本件のような場合にどのように登記するかは、司法書士の一番の職責ですから、条文、先例、判例を調べ倒して申請するのは当然です。
本件事例で、甲、乙、丁で遺産分割協議をして乙丁が預金を取得して甲が不動産を取得したとします。(割合的包括遺贈は個々の遺産の帰属を定める遺産分割協議が必要となります)
相続人間の遺産分割であれば法定相続登記→遺産分割による持分全部移転登記という二段階の登記を経ないでぽんと遺産分割の結果の相続登記を入れることができます。
普通に考えたら、第三者への包括遺贈の登記は相続人じゃない第三者が登場するわけだから中間省略登記はダメなんじゃないかと思い浮かびます。
また、一部持分の相続登記が不可なことから遺贈による所有権一部移転登記→相続による亡△△持分全部移転登記の順番になると推測できます。
上記の例で言うと
(3-1)所有権一部移転 年月日遺贈 持分4分の1 甲
4分の1 乙
4分の1 丁
(3-2)亡△△持分全部移転 年月日相続 持分4分の1 丁
(3-3)甲を除く共有者全員持分全部移転 年月日遺産分割 持分4分の3 甲
となります。先例、解説を調べて間違いが無いことを確認して申請しています。
法務局から電話かかってきました💦
登記官)どうしてこんな登記になるの?どこからこんな持分が出てくるの?意味が分からない。
私)相続人であればぽんと遺産分割協議の結果の登記を入れることができますが、相続人以外への割合的遺贈なので中間省略ではなく原則通り遺言に基づく遺贈の登記、無効になった分の相続登記、遺産分割協議による持分移転登記が必要だと思います。
登記官)何を言ってるのか意味が分からない。
何を言ってるか意味が分からないは、わりとキョーレツな否定ですよね。何を言ってるか意味が分からないは言った者勝ちです。説明無理って悟って、
私)この部分は登記研究に解説ありますから該当ページをFAXします。
と答えてFAX送ってむしゃくしゃするのでバッグ買いに行きましたよ。
さて、下記が法務局に送った登記研究です。わたし、法務局には登記研究あるかと思っていました。号数言えば伝わるのかと思っていました。無いようです。
登記研究571号「カウンター相談60」遺贈・遺産分割協議による所有権移転の登記
問いは、相続人5名の内甲乙丙の3名に包括遺贈がなされて遺産分割協議により甲が不動産を取得した事例で、当該不動産について、遺贈による包括受遺者名義の登記を経由せず、直接、甲名義への所有権移転の登記をすることができるでしょうか?というものです。
解説です。
「相続人または遺言執行者が登記義務者となって共同申請することによって真性が担保されている遺贈の登記と共有となっている包括受遺者間で持分を失う者が登記義務者となって共同申請することにより真性が担保されている遺産分割の登記とを合わせて1つの登記手続きで済ませることは登記の真性担保の観点から相当ではありません。また、対抗要件として登記を要する二つの物権変動を、一つの登記手続きで済ませることは、中間省略登記を認めることにもなります。」
登記研究の解説読んで理解されたようでこの部分については電話かかってきませんでした。
私の手元にはバッグだけが残りましたよ
3-1の一部移転と3-2の相続による全部移転がこの順番でなければならないことも先例があります。
なお、3-1の遺贈登記は、相続人丁に移転する部分の登録免許税は1000分の4 となります。
※丁が相続人であることを証明する戸籍謄本を添付します。なお甲・乙についても生存証明として戸籍を、丙については相続人より先に死亡してる証明として戸籍を添付します。
3-3の相続人でない甲への遺産分割による持分移転の登録免許税は1000分の20です。
※先例がない以上、原則通り1000分の20になります。高い💦
ここは念のため照会をかけて1000分の20の回答を得ています。
実際の事例はこんなに単純ではありませんでしたが、とりあえず受遺者死亡の点のみ書いて整理しました。
続きます。