5 遺言書保管官は、第一項の請求により遺言書情報証明書を交付し又は第三項の請求により関係遺言書の閲覧をさせたときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該関係遺言書を保管している旨を遺言者の相続人並びに当該関係遺言書に係る第四条第四項第三号イ及びロに掲げる者に通知するものとする。ただし、それらの者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
相続人が遺言書に基づいて手続きをするときは必ずこの「遺言書情報証明書」の交付請求をすることになり、それを他の相続人に、交付請求がありましたよと通知するという制度です。
とすれば、誰が相続人か、住所はどこかを戸籍や住民票を添付して証明することになります。
それが4項の下記規定ということですね。
4 第一項又は前項の請求をしようとする者は、法務省令で定めるところにより、その旨を記載した請求書に法務省令で定める書類を添付して、遺言書保管官に提出しなければならない。
結局被相続人の13歳頃(生殖能力があると考えられる年齢)から死亡までの戸籍すべて、相続人の戸籍に住民票か戸籍の附票を全部提出することになります。
この保管制度のウリは、家庭裁判所での検認手続きが不要になるというものです。
うちの事務所では検認手続きの基本報酬は3万円(税抜き)です。なんてことない手続きですから。問題は戸籍と住民票等の収集です。相続人全員にいついつ検認手続きをしますよ、立ち合いますか?という通知を裁判所が出すためのものです。兄弟姉妹が相続人である場合や数次相続の場合は戸籍収集に手間暇とお金がかかります。
なんだ、結局検認と同じだけの戸籍がいるではありませんか。。
法務省令をネットで探しましたが出てきません。だけど、相続人に通知するとしている以上、同じだけの戸籍と住民票等を添付していくことになるはずです。
この通知の趣旨はなんでしょう。。
自筆証書遺言の検認制度の趣旨は、偽造・変造の防止と、推定相続人に遺言の有効性を争う機会を与えることでしょう。
法務局の遺言書保管制度では偽造・変造は起らないけれど、遺言能力を争ったりとか遺留分減殺請求の機会を与えるために相続人に通知するということでしょうか。。
ともかく、検認はいらないけれど、結局検認するのと同じだけの戸籍謄本等は集めなければならないということですね。
とはいえ、偽造・変造の防止という点では公正証書遺言と同じ役割を果たせるということにはなります。
だけど、徹底的に公正証書遺言と異なるのは、登記官は遺言書の中身までは確認してくれないということです。
ましてや、そういう意図ならこの文言はおかしいですよ、とか、こういう分配では相続人間で後々トラブルの元になりかねませんよ、とかの助言などしません。
自筆証書遺言書で問題なく登記できたのは3分の1程度だと前にも書きました。
今は本やネットで調べられますからもう少しましにはなってるかもしれません。
無料相談に持ってこられた自筆証書遺言案も保管制度云々以前に、中身がダメでした。
この法務局での保管制度によって、今までちゃんと公正証書遺言を作っていた層が自筆証書遺言にシフトするのではないか、使えない遺言書、不備のある遺言書が量産されるのではないかと、私なんかはものすごく心配します。
わずか30分程度の無料相談に来られてもきちんとした助言をすることなど不可能です。
なお、「全遺産を妻○○に相続させる」というような単純な遺言書なら自筆証書遺言でこの法務局の保管制度を使って問題ないのは、もちろんです。