年金分割のしくみについての解説はいろんなHPやブログに載っています。わたしは公正証書にするべきか、という視点から書いてみたいと思います。
年金分割の方法にはざっくり次の3つの方法があります。
①離婚後に、直接年金事務所に年金分割合意書を持参する。
②離婚前に、離婚給付契約書の条項に年金分割の定めを記載して公正証書にする。
③離婚前に、離婚給付契約書の条項に年金分割の定めを記載してこれとは別に年金分割だけの合意書に公証人の認証を受ける。
その前に、年金分割のための情報提供を受けましょう。
(1)年金分割のための情報提供
年金分割のための情報提供請求書を年金事務所に提出
(添付書類)
年金手帳(郵送の場合写し可)戸籍謄本添付(窓口の場合原本還付可)
身分証明・認印
上記を持参して窓口で書き方を教えてもらうのが無難です。
1週間から~3週間郵送にて「年金分割を行った場合の年金見込み額のお知らせ」が送られてきます。
(知られたくない場合は窓口受け取りも可)
※自分で年金額を計算することは本当に難しいです。金額を誤解したまま合意をしないようにこの制度があります。いろんな割合で見込み額を算出してもらうこともできます。
「年金分割を行った場合の年金見込み額のお知らせ」には「年金分割を行わない場合」「案分割合50%(上限)の場合」「希望された案分割合の場合」のそれぞれにつき年金支給額が記載されており非常に分かりやすいものとなっています。
また65歳になるとぐんと年金額が上がるので情報提供請求時の年金支給額と65歳で年金分割を行った場合の年金支給額に分けて書かれています。
つぎに最初に書いた3つの方法について説明します。
(2)年金分割の合意
(離婚後に年金分割の合意)
①離婚後に年金分割合意書を元夫婦2人(またはそれぞれの代理人)が年金事務所に直接持参(年金事務所に置いてある書式を用いてその場で合意書を作成してもよい)し、同時に「標準報酬改定請求書」を提出します。
必要書類
免許証などの本人確認書類・印鑑
(離婚前に年金分割の合意)
②公証人役場での公正証書作成
離婚給付契約書の条項に年金分割の定めを記載して公正証書にします。離婚後の分割請求の手続きでは公正証書の謄本(全文)ではなく年金分割の抄録謄本を提出すればよいということです。
③公証人役場での私署証書認証
離婚給付契約書の条項に年金分割の定めを記載し、かつ年金分割の合意だけの合意書(公証人役場に様式が有ります)を作りこの合意書に公証人の認証を受け離婚後の分割請求の手続きで提出します。
〔離婚給付契約書の例〕
第5条(年金分割の定め)
1 甲(第1号改定者)と乙(第2号改定者)は、本日、厚生労働大臣に対し対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意する。
甲(生年月日 昭和 年 月 日)
(基礎年金番号)○○○○-○○○○○○
乙(生年月日 昭和 年 月 日)
(基礎年金番号)○○○○-○○○○○○
※合意による割合は0.5以下
①の方法はお金がかからないというのが一番のメリットです。ですが離婚後に行う必要があるため離婚届までに日数がかかる場合には、案分割合でもめるとか、気が変わって協力してもらえない、というリスクがあります。すでに離婚届を提出していますので離婚届けに判を押すことを引き替えに協力を引き出すこともできません。
ですから多くの場合は、離婚届提出前にきちんと合意しておく②③の方法がリスク回避になると考えます。②③の方法は離婚届け前に手続ができ、年金分割請求も妻一人で行えるために後で協力してもらえないなどのリスクがないのです。
では②と③とどちらを選択するべきでしょうか。
②は一番手間暇と費用が掛かりますが、養育費の支払いや現金での財産分与や慰謝料の分割支払いを定めた離婚給付契約書は公正証書にするのが望ましいです。金銭の一定額の支払いを内容とし強制執行認諾条項があれば、のちのち支払いが滞った際に裁判を起こさなくても公正証書に基づいて強制執行(差し押さえ)ができるからです。また公正証書にすれば心理的プレッシャーになりきっちり支払ってもらえるという事実上のメリットもあります。
なお、年金分割合意につき公証人手数料が11000円かかります。
③の私署証書認証の場合は公証人手数料が5500円ですみます。離婚給付契約書を公正証書にする必要が無い場合、つまり金銭の一定額の支払いの定めがない場合は、この方法で必要充分と言えます。年金分割の定めの条項のある離婚給付契約書は作成するのですが、別途年金分割合意書(公証人役場に様式あり)を作成して公証人の認証を受けるので簡便です。後日年金事務所にこの合意書を提出すれば年金分割の合意以外の協議内容を知られることがありません。
(必要書類)
②公証人役場での公正証書作成
③公証人役場での私署証書認証
②③ともに、年金手帳・年金分割のための情報通知書・戸籍謄本・本人確認のための運転免許証やパスポート又は印鑑証明書+実印
以下、②③の場合のその後の手順を説明します。
(3)離婚届提出
(4)年金分割の手続き
年金事務所に「標準報酬改定請求書」に必要書類を添付して提出します。
(添付書類)
双方の年金手帳・双方の戸籍謄本(結婚年月日と離婚年月日の記載があるもの)・年金分割合意書(離婚給付契約書)の公正証書の謄本(抄録謄本)又は公証人の認証を受けた年金分割合意書(私署証書)、認印
(5)改定の通知書が送られてくる
「標準報酬改定通知書」が当事者双方に届きます。
年金受給中の場合は、改定請求の翌月分の年金から額が変更になります。
主に、年金分割の合意を公正証書にするべきか、という視点から考察しました。
要は、非常に短期間で離婚が成立して相手方が翻意する間が無くてかつお金の分割払いが無いようなケースでは離婚届提出後に元夫婦そろって直接年金事務所に行って年金分割手続きをする。
離婚にある程度日数がかかりかつお金の分割払いがあるようなケースでは離婚給付契約書を強制執行認諾条項付公正証書にする。
離婚にある程度日数がかかるけれどお金の分割払いが無いようなケースでは年金分割だけの合意書に公証人の認証を受ける。
こんな基準になるのかなというのが私見です。
実際に手続される場合は必ず自身で調べたり提出先に問い合わせたりしてしてください(自己責任で)